かわち野第11集
白南天
鈴木 幸子
十二月も中頃になり、今年も白南天と赤南天が背伸びするように塀から突き出て、青空をバックに揺れている。
平成二十六年九月に夫が亡くなってからも南天はずっと実をつけ続けている。
この白南天には忘れられない物語がある。
夫は五十代の頃から青少年指導員のボランティアをして、地域の人たちと交流を持ち楽しそうだった。
私は看護師として働き、三交代勤務で家を空けることが多かった。(自分の家のボランティアもして欲しいわ)と、内心面白くなかった。家から見える体育館のグランドへ、野球やソフトボールの世話をしに出掛ける日々が続いていた。
ある日、夕方からの勤務で最寄りの駅へ行くと、息子が本屋で立ち読みする姿を見た。心が痛んだ。野球や外遊びに興味を示さず、本や漫画を好んで家に居ることが多い性格だった。
夫のボランティア仲間との食事会は折々に催されていた。ある時、横に座った一人から「鈴木さんとこ、白南天あるか?」と聞かれたらしい。「持って行ってあげる」で話は終わったという。
その後、その人は活動に出席しなくなり、仲間の一人から、胃癌で亡くなったと知らされたそうだ。
それから何年か経った。
植えた覚えは全くないのに、道路に沿った塀の赤南天の横に、白南天が実をつけてワサワサと揺れるようになった。それを見た夫は、食事会での会話がよみがえったようだ。南天の実がつく頃になると、感慨深そうに食事会での話を私に聞かせた。
黄泉の国で、夫は白南天のお礼を言ったのだろうかと空想してみる。
完