第三集

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かわち野

かわち野第三集 あとがき 綴り方と話し方のクラブ アイ・マイ・ミー代表  重 里 睦 子  思い出は多ければ多い程人生が充実する――。この文集を編集する中で強く思いました。作品の中に作者の歩んできた道のりが刻み込まれています。読んで下さる方...
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かわち野第三集 夜の魚獲り 山田 清  夏風は、土の匂いと緑の香りを一杯に含んでいた。 大きく育った稲を撫でながら、開けっ放しの縁側から裏口へと、家の中を通り過ぎて行く。近くを流れる川で、目一杯泳ぎ遊んだ身体に、昼寝は心地よかった。 それは...
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かわち野第三集 鼻歌 松本 恭子  住宅街の中を走っては止まり、止まったかと思うとまた走り出しながら、新聞を配るバイクの音が遠ざかる。 寝返りをうち、枕元のスタンドを点けた。時計の針は、午前四時をすこしまわったところを指していて、外はまだ暗...
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かわち野第三集 開頭術 西村 雍子  今年五月の脳外科受診、主人の髄膜腫のMRI検査の結果を聞く日である。診察室に入るとモニターに頭部MRIの画像が写しだされている。髄膜腫が随分大きくなっている。「そろそろ手術をしましょうか・・・」「えっ ...
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かわち野第三集 今、母に感謝したい 西田 美恵子  毎年木枯らしの吹く冬が近づくと、冷たい川で弟のおむつ洗いが、苦痛だったことを思い出す。私のふる里は、白山が見える石川県だ。あの頃は、戦中戦後の親子共々苦労をした時代だった。 私は五人姉弟の...
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かわち野第三集 みんな夢ん中 冨永 幹雄  あれから何年経ったのか。その日も岩湧山へ、歩いて、歩いて中腹当たり迄くると、なぜかコースを変更したのが運のつき。林の中へ進み、大きな岩の上で休憩を。見晴らしも良く、遠くで子供達のはしゃぐキャンプ場...
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かわち野第三集 マリアの泪 徳重 三恵  三年前の十月中旬のことです。 その日、わたしは缶ビール一本を小さなグラス二つに注ぎ、夫とささやかな乾杯をしました。肴は丹波の黒枝豆の塩茹でと、マグロの刺身です。 乾杯の趣旨は二人の健康と、手造りワイ...
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かわち野第三集 お空に上がった風船 津田 展志  今日は青空が広がり、お日様も明るく輝いています。猫ママはとも君とお買い物に出かけようと思いました。 「とも君、ショッピングに行こうか」「うん、ぼくね、猫ママとならどこでも行くよ」 猫ママは猫...
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かわち野第三集 遺 訓 滝尾 鋭治  母は私が五歳の時に病死した。享年三十八歳。私達一家は、それまで大阪市内の天満に住んでいたが、十三(じゅうそう)の父方の祖母の家に預けられた。 そして一年後、父は同じ職場の一回り年下の女(ひと)と再婚した...
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かわち野第三集 あみもの 鈴木 幸子  夫が悪性リンパ腫の三回目の再発を告げられて、抗癌剤治療の目的で入院した。六人部屋の廊下側で、各ベッドはカーテンで覆われており昼でも電気が必要な暗さだ。入院して一週間になる今朝、窓側への移動が叶った。 ...