かわち野

かわち野第八集

あとがき

綴り方と話し方のクラブ アイ・マイ・ミー
代 表  重 里 睦 子

 唐突に私事で恐縮ですが、高齢化に伴う当家の実状から申し述べさせて頂きます。
「僕たちはねぇ、団塊の世代だから呆けるのも死ぬのもラッシュだよ」
 数年前、夫はそう言っていた。
 そして、三年前のことである。ちょっと変? と感じ、かかりつけの開業医を訪ねたら、先生は「認知症です、大分進んでますねぇ」とおっしゃり、総合病院を紹介して下さった。
 それから間もない頃、夫は現役時代の友人に電話をかけて、
「僕、認知症にかかっちゃったよーー」
 と知らせていた。そして、明るい認知症患者の介護生活が始まった。トンチンカンなことを言いながら、最後にオチがつく。そんな冗談や会話で笑い、(あら、こんな生活も楽しいわねぇ)なんて思ったものだ。
 しかし、楽しい介護生活はそう長くは続かなかった。徘徊、異食行為、パーキンソン病……、どんどん症状は進行していった。
 二〇二二年三月二三日、この日は〝アイ・マイ・ミー‶の講座開催日であった。
 朝、起こしても夫は動かず、立ち上がることも座ることも出来なかった。デーサービスの迎えが八時四五分、私は送り出したらすぐ講座のある会場に向かわねばならない。しかし、時間が迫っても状態は変わらず、やむなく介護施設の迎えを止めた。
「では、一〇時に再度お迎えに上がります」と気遣ってくれたが、その日は家で看ることになった。私は講座を休まねばならない。でも、私の都合で急遽休講にするのは申し訳ない。
 そうだ、午後の部は、級長(滝尾さんの書いた掌小説・『高齢者小学校』の中で名付け、以後皆からそう呼ばれている)の山田さんに進行をお願いしようと電話を入れると快諾してくれた。
 そして、講座終了時刻――。
「今、終わりました」と山田さんからご丁寧に電話で報告を受けた。メンバーの何人かからも、とても充実した読み合わせでした、などと聞いた。「今後もこの様なことがあれば、また皆で協力し、今日の様にして講座を続けていこう」という話も出たそうだ。
 三年前、講師の体調不良により、講師不在のまま続いている講座であるが、〝アイ・マイ・ミー‶はまた一歩前進したと思う。正にメンバーの固い絆によって。
『かわち野』⑧は、そんなメンバーの作品集である。過去の辛い体験なども、今となっては良き思い出となり、その人を作り上げている様だ。各々の豊かな人生体験を味読して頂きたい。
 午前の部も少人数ではあるが、講座日以外に歩こう会を企画したり、有意義な時間を共有している。
 表紙の図柄は、今年も受講生の黒江 良子さんの作品です。
二〇二二年三月吉日