かわち野第三集
お空に上がった風船
津田 展志
今日は青空が広がり、お日様も明るく輝いています。猫ママはとも君とお買い物に出かけようと思いました。 「とも君、ショッピングに行こうか」
「うん、ぼくね、猫ママとならどこでも行くよ」
猫ママは猫ではありません。生まれたのが2月22日なのでニャンニャンの日と言われています。だから、とも君が生まれてから猫ママと言うようにしたのです。とも君は猫ママの子供だから、猫ぼくなんだと思っていました。
ショッピングセンターに行くと、お空に風船があがっていきます。ゆらゆら揺れながら、どんどんあがって見えなくなりました。
「風船さん、どこへいっちゃったの」
「どこへ行ったのかな、嬉しそうだったね」
「うん、ぼくもとべたらいいなあ」
「あっ、ほら見て」
ショッピングセンターでは何かイベントがあるのか、ぬいぐるみを着た猫ちゃんが風船を配っています。
「ほら、とも君も貰ってきたら」
「ううん、ぼくひとりでいけない」
とも君は、まだまだ一人でもらいに行けません。
「じゃあ、猫ママも一緒に行くからね」
猫ママはとも君の手を引いて猫ちゃんの所に行きます。猫ちゃんは、とも君にも風船を渡してくれました。猫ママは飛んでいってしまわないように、とも君の手首にふう線のひもを結びつけます。
手首を動かすと風船は近くに寄ったり離れていったり動き回ります。だけど、お空に舞い上がりたくて仕方がないように見えます。お買い物の間、風船はとも君の周りを飛び回っていました。
家に帰ってからは風船の紐を椅子の足に引っ掛けて固定します。そうして、手の平で風船を叩いて遊びます。猫ママはそんなとも君を優しく見守っていました。
食事をした後も、風船と遊びます。天井まで浮き上がらせてジャンプして捕まえるのです。たった1個の風船で数時間たっぷり遊びました。そして疲れてベッドで眠りについたのですが、猫ママはとも君が言った言葉が気になりました。
「ぼくね、あしたも、風船さんと遊ぶんだ」
浮き上がる風船はたった1日しか浮き上がりません。一晩経つとガスが抜けてヨレ~ッと床に漂ってしまうのです。
「風船さんね、今日いっぱ~い遊んだから疲れちゃって明日は一緒に遊べないの。だから遊んでくれて有難う~って言って風船さんにバイバイしてあげようね」
「疲れちゃったんだ。いっぱ~い遊んだもんね。アリガトウ♪風船さん、おやすみ」
優しく風船にキスしました。朝起きると、風船は力なく床に落ちています。
「風船さん、死んじゃった~!どうして?」
とも君は昨日見たお空に上がっていく風船を思い出して余計に悲しくなりました。
「風船さんはね、1日だけ沢山子供と遊んだらそれでバイバイなの」
「そうなの」
「でもね、とも君が昨日寝る前アリガトウを言ったから風船さん喜んでくれたよ~」
「そっか~。わかった♪」
笑顔になったとも君ですが、やっぱりお空にあがった風船を思い出します。朝食を食べた後にとも君は風船を持ってお庭に出ます。そして、風船をお空に向かって手で打ち上げます。だけど、何度やっても風船はお空にあがることなく落ちてきます。
猫ママは、そんなとも君を見て止めようと
思いました。だけど、うっすら涙を浮かべながら頑張っている、とも君を見ているともう少し見守りたいと思ったのです。お日様も周りの木々もとも君を見ています。
「ぼくは、お空にあがらなくて良いよ」
風船もそう言いたくなるほど、とも君は頑張ったのです。風船の声が聞こえたのか、お日様が風に囁きかけました。猫ママもこれ以上は無理と止めようと飛び出した時です。とも君が打ち上げた風船に風が小さな竜巻になって吹き上げたのです。
「ウワー、ありがとう、とも君また遊んで」
風船はどんどん空高くあがって見えなくなりました。だけど、とも君には風船の声が確かに聞こえたのです。猫ママにも風船の声は聞こえました。とも君の優しさと、それを見守った猫ママが奇跡を起こしたのかも知れません。
「風船さん、いっちゃったけど。よろこんでくれたよ」
猫ママはそんなとも君を優しく抱きしめます。お日様も青空の中でにこにこと明るく輝いていました。
終わり