かわち野

かわち野第七集

あとがき

綴り方と話し方のクラブ アイ・マイ・ミー
~「生きるって 素晴らしい!」を実感できる講座~
代 表  重 里 睦 子

 長年ブライダル業界にいた私ですが、とても感動した披露宴がありました。カラオケや余興など全くない、スピーチが三名とピアノ演奏が一曲という、とてもシンプルなものでした。しかし、会場のスタッフまでがサービスの手を止め、スピーチに聴き入っていたのを覚えています。
 そのスピーチとは――、
 先ずは、新郎のスピーチを紹介しましょう。
 僕は、結婚披露宴を甘く見ていました。二時間少々の披露宴はつつがなく進み、気がつけば終わってしまっているのだろうと思っていました。僕は新婦と違って色直しが一回少ないから、その間にトイレに行こうと思っていました。が、それが涙に変わってしまいました。
 僕の人生は無限大です(無限大の記号=∞)。末広がりでありながら必ず元に戻ってきます。僕は今まで大変な回り道をしてきました。両親にも心配をかけました。でも、回り道をしたお陰で掴んだものも沢山あります。
 僕は、ひょっとしたらまた回り道をするかもしれません。でも、これからは、●●(新婦)と一緒にまた元に戻ってきます。そして、「幸せだったなぁ」と言える、そんな一生を送りたいと思います。
 と、その場仕立てかなと思うような話しぶりでしたが、自分の気持ちがそのまま正直に表現されたとてもいいご挨拶でした。
 この新郎のスピーチを引き出したのは、彼の中学生時代の恩師のスピーチでした。
 
次に、恩師のスピーチを紹介します。
 新郎は、中学生時代より、サイクリング、釣り、サッカーに熱中していました。勉学にもまじめに励んでいましたが、特に自転車に関しましては、想像を絶する程のものでした。
 しかし、中学3年生の時、担任がこんなことを言ったのです。
「君は、このままいけばダメになるよ。自転車をやめなさい。」と。
自転車に夢中であった彼に、自転車につぎ込むエネルギーを勉強に費やしなさいと言ったのです。その担任の一言で、彼は今で言うならば〈切れる〉といったところでしょうか、大好きな自転車をやめろと言われて、一人の大人の心無い一言が、彼を大きく変えてしまいました。高校へ上がりましたが、繁華街へ出歩く様になり、髪型、服装、そして目つきまでもが変わりました。そして彼は退学すると言いました。
「僕は大検で大学へ行く、こんな学校やめたるんや!」と。
 ご両親も大変心を痛められました。
 私はサイクリングという、彼とは共通の趣味を持っていました。彼が作ってプレゼントしてくれた自転車に乗って、二人でサイクリングしたこともあります。そんなときの彼は生き生きとしていたのにと思うと、とても残念でした。
 私事ですが、2年前、国道171号線を自転車で走っておりましたら、トラックと正面衝突をしてしまいました。下半身相当な打撃を受けたのですが、危うく命は取り留めました。彼が作ってプレゼントしてくれた自転車に乗っていてのことでした。彼が私を救ってくれたのです。彼の魂の入り込んだ自転車が私を助けてくれたのです。
 サイクリングで紀伊半島一周、四国一周、九州縦断などしていた彼が、やがて旅の相棒を自転車からオートバイに切り替えて、益々行動範囲を広げ、そして旅先の九州に強く惹かれ、九州の大学に進むことを決めました。
 そして、またもやオートバイに関しては、壊れて動かないものを修理して再生するなどの力の入れようでした。
 今、●●●工業に入社、研究という仕事に携わっています。彼は、自分の思い描いた道を、回り道はしたけれど貫きました。
 今日、晴れ舞台を見て、私は本当に嬉しいです。
 と、涙ながらのスピーチでした。新郎のことを本当に愛し見守ってこられた、それがジンジン伝わってきました。
 これ程にまで盛り上げたのは、つまり、彼の歩んできた道のりであります。

 誰にでも紆余曲折があり、その時どきに得た感動が人生を豊かにし、潤いを与えてくれるのです。
〝アイマイミー〟では、各々の体験談を文章にします。色々な話がありますよ。愉快な話、ジンとくる話、明るい気持ちになる話、スカッとする話、羅針盤となる様な話等々、内容はいつも様々です。そんな中から一人一作ずつ選び文集⑦が出来上がりました。
 毎回の講座では、作品ごとに感想を述べ合い推敲校正し更に磨きをかけます。すると、思い出がクローズアップされ、自分の人生に誇りを持つことができるのです。幸せに生きるってそんなことかもしれません。
 私たちはこれまで多くの人々に出会ってきました。そして特に晩年に、書きたい、読みたいという志を同じくする仲間とこの講座で出会ったことは、何と言いましょうか、生きがいを見つけた様な、若い頃とはまた一味、二味違った充実感となっています。
 読む、書く、話す、この魅力を追い続けていきたいと思います。

 最後に嬉しいご報告を添えておきましょう。
 メンバーの文章力、書く意欲はどんどん上昇し、今年度また受賞並びに投稿文掲載がありました。
 ・公益財団法人岐阜県教育文化財団主催 第二十八回岐阜県文芸祭
  随筆の部 文芸大賞受賞 「青モミジの中を」 山田 清
 ・第二十三回ふくい風花随筆文学賞
  一般の部 優秀賞福井新聞賞受賞 「朝の一本締め」 徳重 三惠
 ・各新聞社投稿文掲載 数名
以上
 皆で喜び、互いの励みとなっています。
令和二年三月吉日