かわち野第八集
鳥地獄
後藤 新治
河内長野には鳥地獄と言う恐ろしい呼び名の場所が3ヶ所ある。そのうちの1ヶ所は大阪府の地図に載っているが、他の2ヶ所はあまり知られていない。
鳥地獄とは、火山地方や温泉地方で、多孔質の岩石やその割れ目などの噴気孔から噴き出す有毒ガスのため、鳥・昆虫・獣類など死ぬことがあり、鳥地獄・虫地獄・タヌキ地獄などと呼ばれる。
一般的に知られているのは310号線を五條市に向かい、行者湧水から石見川口のバス停を過ぎて、南の山を登った所にある。2キロほど登らなければならないが、果たして見つかるだろうか。
令和1年1月に、ウオーキング仲間5人と行った時の事である。昨年、平成30年の台風21号の被害で、大阪府は甚大なる被害を受けた。その影響で鳥地獄までの山道は行けるか心配していたが、案の定、木々は無残にもあちこちで倒れていた。特に針葉樹のヒノキやスギは根が浅いため、土がえぐられて何本も横たわっていた。跨いだり、くぐったり、そして持ち上げて移動したりと多難を極めた。そのうち5人の距離がバラバラになり、先頭の1人の姿が見えなくなった。心配になり引き返そうかと相談したりしていると、やがて、「あったぞー」と叫ぶ声が聞こえる。後続の我々は顔を見合わせ、「わかったーん?」と返す。さっきまで厳しい顔をしていたが、それぞれ笑みを浮かべて声のした方へと急ぐ。
少し平地になった所に茶色の水溜りがあり、少しブクブクと泡が出ている。その奥の方に何やら二つの物体を見つけた。「えっ! タヌキや!」と誰かが叫ぶ。2体ともうつ伏せになり、のめりこんでいた。女性の一人が「キャッ―」と大声で叫び、顔を両手で覆う。「ホラ、もう一回よく見たら。こんなチャンスは二度とないよ」と言っても、見ようとしない。男の連中はここぞとばかりカメラを取り出し、位置を何か所も変えてシャッターを切る。目の当たりに見た光景に、本当のタヌキ地獄に遭遇出来たことを、タヌキには申し訳ないが興奮と感動に酔いしれた。
和泉市の南面利にも、有名な鳥地獄が有り何度も訪れた。ここよりも面積が広く、噴気孔から出るガスは、大きな音を立て水泡を伴い、その迫力に最初見たとき「うわっー」と大声で叫んだものである。しかしタヌキや鳥の死骸には出会ったことがない。
下山は来た道を行くだけだが、登ってきた時のあの不安な気持ちは微塵もなく、真冬の凍えるような山風は心地よく、倒木に荒れた杉林も平気で、早々と下りることが出来た。バス停までの道を男連中は饒舌にその話に盛り上がり、今日の大きな収穫に大満足しているのに対し、女性は少しショックだったようで、タヌキの話には触れないようにしているのが分る。多分今日の事は、これから折に触れ何度も出てくる話題になりそうだ。
これに味を占めて、後の2か所、天見の蟹井神社前の「蟹井の淵」と呼ばれる所と、流谷八幡神社の南のボ谷を登った所へ、是非早急に行ってみたいものである。