かわち野第九集
白内障手術
重里 睦子
令和四年十月十九日、私は七十歳にして白内障手術を受けた。
かかりつけの眼科医より「僕の後輩で手術が上手いですよ」とK病院を紹介してもらう。初診時から、感じがよく信頼感につながった。
手術の前日午前十一時、私は入院しその日はシャワー浴を済ませた。何しろ手術後は当分、洗顔洗髪はできなくなるのだから。
当日午前九時三十分、看護師が呼びに来て車椅子で手術室まで連れて行ってもらう。
いよいよだ。
たかが白内障とはいえ、だんだん不安が募ってくる。
「私のおじいちゃんも、ここで両目を一度にしてもらったんですよ」
と車椅子を押しながら看護師が言う。患者の気持ちをほぐす決まり文句だろうか。でもその一言で確かに私の気持ちは軽くなった。
しかし、いくら上手いと評判の先生でも、万が一ということもあるのではなかろうか。あまりもの私の美しさに緊張し、失敗するなんてこともあるかもしれない、なあんて……。
手術台に座っている自分の手に力が入っているのを感じる。
「はい、右目終わりましたよ。左目に移ります」
と先生は言い、ほんの僅かな、おそらく三十分くらいで両目の手術は終わった。
――緊張が解けた――
なーんだ、簡単なものではないか。ちゃんと見えている、よかったぁ。
翌日の午後、私は退院した。
まずびっくりしたのが、お肌のシミとシワ。
えっ、これが私?
家に入ると、家じゅうが明るい。そして見えるワ見えるワ、汚れが。壁についた埃、タイルの目の黒ずみ、ダイニング、洗面所、風呂場、窓の桟……。
毎日掃除をするが追いつかない。
見えない方がよかった、かも。
そうだ、これからは若い人と白内障手術を受けている人は、家の中にはお通ししないことにしよう。
いやいや、明日からはもっと自分磨きを、そして部屋磨きも怠らないようにしなければ。