第九集

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かわち野第九集 老いぼれシェフの献立 徳重 三恵  朝食を済ませた後、只々ぼーっと食卓に頬杖をついたまま二時間ほど経つ。太宰治ならいざ知らず様にもならない。 明らかに尻に根っこが生えているのである。   お一人様の特権とは言うものの、今でさ...
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かわち野第九集 優しすぎるって何だ(遺作) 津田 展志  私が難病のギランバレー症候群に罹ったのは、結婚して八か月経った頃だった。微熱が続き、原因も病名もわからず、入院するまで一ヶ月近くかかった。 入院直後は一か月で退院の予定だったが、病院...
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かわち野第九集 人生の末路 滝尾 鋭治  人生、八十代の半ばになると、ふと、自分はどのような死に方をするのだろうと思う。 先日、スーパーへ行く途中で以前に野菜を買っていた農家のお嫁さんと出会った。農作業をしていた舅が七年前に病死。その後姑が...
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かわち野第九集 朝の散歩 鈴木 幸子  家を出て、岩湧山を背にして十メートルほど歩くと、清教学園の裏門につく。公園入口の学校の時計は九時を指していて通学の学生の姿はみられない。 空を仰ぐと吸い込まれるような青空が広がっている。 細い山道には...
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かわち野第九集 白内障手術 重里 睦子  令和四年十月十九日、私は七十歳にして白内障手術を受けた。 かかりつけの眼科医より「僕の後輩で手術が上手いですよ」とK病院を紹介してもらう。初診時から、感じがよく信頼感につながった。 手術の前日午前十...
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かわち野第九集 松露と松風 坂下 啓子  七年前になるが私は娘と二人ベトナムに向かっていた。娘はその時独身貴族で気軽に旅行し、旅慣れていたので付いて行くと何かと楽で気兼ねもなく、私には最高の旅行相手であった。 降り立った南ベトナム、ホーチミ...