かわち野

かわち野第三集

今、母に感謝したい

西田 美恵子

 毎年木枯らしの吹く冬が近づくと、冷たい川で弟のおむつ洗いが、苦痛だったことを思い出す。私のふる里は、白山が見える石川県だ。あの頃は、戦中戦後の親子共々苦労をした時代だった。
 私は五人姉弟の長女として生まれ、家事手伝いが当然の日常だった。
 洗濯機が家に届いた時の喜びは、今でも忘れない。しかし喜びは束の間、弟達のおむつは洗濯機で洗うことが出来ず、家の裏を流れる川で洗うのが、私の仕事だった。
 雪の降る日は、あかぎれが痛くて、おむつを絞る手に力が入らず、子供心に辛かった。
「母ちゃん、もう子供を産まないで」と思わず言ってしまった。どうしてあのような残酷なことを言ってしまったのか、その時の母の悲しい顔が忘れられない。
 今、仏壇の前で手を合わせ母に詫びている。縫い物が好きだった母は、戦争中に小学校(あの頃は国民学校)の入学式を迎えた私に、自分の着物を再生してワンピースを縫ってくれた。その時の嬉しさは今でも忘れられない。
 このワンピースは母も自信があったのか、着用して写した写真が、今でも古いアルバムに威張って残っている。
 私に初孫が誕生した時は、一つ身の着物、布団を暖かいもすの布で縫って届けてくれた。
 七五三詣りの前に、四つ身物を揃えて送ってくれた時はびっくりした。今の自分にこれだけのことが出来るだろうかと思い、母に感謝の気持が溢れた。幸い、私も縫い物が大好きで、ミシンは何時でもスタート出来るように出してあり、母からもらった着物の端布は袋物に変身させている。「母さん、有難う」。