かわち野

かわち野第四集

たんぽぽ

西村 雍子

 この春、満開の桜の木の下に、黄色のたんぽぽの咲いているのが目に留まった。二、三本を葉と一緒に摘み、持ち帰りコップに挿した。一度是非あの真ん丸いたんぽぽの綿毛が出来るのを観察してみようと、思ったからだ。
 たんぽぽの花は子供から大人まで知らない人が無いほどの名の知れた花なのに、実際は花と認められていない様に思える。雑草なのだ。庭や道路に咲く黄色に輝く花は、ともすると嫌われ、抜かれる。
 しかし、たんぽぽほど強い花はほかにない。根は長く土中に伸び、取り除くのは至難の業である。子供のころ庭の草引きをした経験から、除いても、つぎつぎに生えてくるたんぽぽの生命力に驚かされた。
 コップに挿した花は、目の届く机の上に置き、観察することにした。今日まで気にしながら見過ごしてきたので、是非、この機会に知りたいと見続ける事にした。
 綺麗に咲いていた花は、二、三日すると花びらを閉じ、一見蕾かと見違える様になった。
 しばらくして、しっかりがくの中に収まっていた。残念なことにその瞬間を、見ることが出来なかった。白い丸い綿毛はできていた。よくもこんなに真ん丸く開くものだと感心する。その綿毛の一つを摘まんで引き抜くと種が付いている。
 種の数は一体幾つあるのだろうか。数えてみたくもあるが、ピンセットで一本ずつ数える意欲は今の私にはない。
 いい加減なもので、多分一万、いや五千位かなと、たんぽぽの種の数を想像している。
 それから何日か後、たんぽぽの軸はしおれて、綿毛をつけたまま、机の上に倒れてしまった。屋外なら風に吹かれて飛んで行った綿毛も、机の上ではなんとも可哀想で哀れに思えた。
「ごめんなさい、私の我儘のために」
 でもあの、鮮やかな黄色の花と、真ん丸い白い綿毛を思う存分、楽しませて貰った。来年もまた元気で、我慢強くて、可愛いたんぽぽにあの場所で会えるのを楽しみにしている。
 最近は外来種に押されて、日本種のたんぽぽが少ないらしい。また、たんぽぽの葉は、食べることが出来、お浸しにすると美味しいと聞く。また、長い根を幾つにも切って置くと、そこから、それぞれに芽が出て増えるのだと言う。種だけではなく、残された根からも、多くの芽を出し育つたんぽぽに「すご~い」と、思わず拍手と声援を送りたくなった。